タイトルが全てを物語っているのですが、こちらの本はまさに、具材を切ってひとつの鍋で煮るだけというシンプルなレシピを記しているもの。
著者は故小林カツ代さん。有名な料理研究家・エッセイストだった方だそうで、この他にもたくさんのレシピ本を執筆されているようです。
私が初めてこの本に出会ったのは、高校を卒業した頃のこと。
大学進学を機に親元を離れ、これから一人暮らしを始めるというとき、料理などまともにしたことのなかった私に、父が自炊の参考にと貸してくれたのでした。
しかし大学時代、私は家で自炊をすることはほとんどありませんでした。
講義やサークル活動で1日の大半の時間を大学で過ごしていたので、食事は主に学食や大学付近の飲食店を利用するか、バイトなどの帰りにコンビニで適当に買ってすませる日々を送っており、たまに家で食事をする際も、メニューはいつも決まって、手早く作れて安くすむパスタばかり。
そのため大学4年間でこの本をきちんと読んだことは一度もなく、就職に伴う引越しのために荷物を整理した際に、父へ返却をしたのでした。
私がこの本を一度も活用しなかったことについて、父は特に何も言いはしませんでした。
ただその様子はなんだか少し寂しそうに見えて、私は胸がチクリと痛むのを感じ、「せっかく貸してくれたのに悪いことをしたな」と後悔したことを憶えています。
それから数年の月日が流れ、社会人生活を送るうちに、私は自然と自炊をするようになりました。
といっても私にとっての自炊は、節約や健康(毎日惣菜やコンビニ弁当よりは良いかな程度)のための手段で、また食材と調理器具があればなんとか自分のお腹を満たすことができる、最低限身につけておきたい人間力というような位置づけ。
そのためそこまで凝ったものを作ることはなく、また平日は仕事でなかなか時間がとれず、週末にまとめて作り置きをするようにしているので、結局冬場は「簡単に沢山作れるし、今週も鍋でいいや」となってしまいがちで、近所のスーパーでいつも同じような食材を買っては、毎週同じような流れで、ただ作業のように調理をしています。
幸いなことに、同じようなメニューの食事が続いても特に飽きることはなく、毎日それなりに美味しくいただくことはできているのですが、この毎日鍋生活を送っているうちに、ふとこの本のことを思い出し、「今の自分にはちょうどいいレシピ本なのでは?」と、学生時代のリベンジをしたい気持ちもあったのでネットで購入してみました。
先日手元に届き、久しぶりに中をパラパラと見てみると、なんとなく見覚えのある楽しげなイラストが盛りだくさん。作り方もこちらに語り掛けるような優しい文章です。
今後はたまにはこちらのレシピで料理をしてみて、「あの本、今使っているよ」といつか父に報告してみようと思います。